二次元桃源郷(アニメ、漫画、ゲームレビュー)

とにかく面白い作品の感想を書いています(ただし酷評)

愛人[AI-REN]評価S 世界は人殺しの夢でできている

カテゴリ:青年漫画(ジェッツコミックス)

ジャンル:SF恋愛

著者:田中ユタカ

特徴:本当の愛情とは何かを教えてくれる至高の傑作

 


 

日本語で愛人というと浮気相手のことだが、中国語では恋人や配偶者のことを指す。

本作の愛人(アイレン)は余命いくばくもない末期患者に与えられる人造人間であり、作り物であるが故に全力で患者を愛してくれる。

通常の恋愛で見られるような相手を推し量ったり、結婚に悩んだりする感傷はこの作品にはない。

残された日々と愛する人と共に過ごす、ただそれだけの物語である。

 

主人公のイクルにもアイレンのあいにも寿命が殆ど残っていないが、それは彼等二人に限った話ではない。

この世界の人間は種としての寿命が近づいており、環境破壊と戦争、遺伝子欠陥によって滅亡寸前にある。

既に自然生殖の能力すら失っており、子供を作るためにセックスをすることすらない。

 

滅びゆく人類に翻弄される男女といえば「最終兵器彼女」が近い作品と言えるが、全くレベルが違う。

理不尽に展開し、謎の超能力や超技術で無理矢理話を畳んだ最終兵器彼女とは違い、完全に作られた世界観において、現実的で冷酷な物語が展開される。

それ故に奇跡はなく、イクルにもあいにも、もちろん人類にも何の救いも与えられはしなかった。

圧倒的な科学力で戦争を止めた宇宙人(HITO)ですら、ただの幻に過ぎなかった。

 

世界が死にたえようと
あなたが死んでしまおうと
わたしが死んでしまおうと
そんなのたいしたことじゃない
そんなのたいしたことじゃない

 

救いも奇跡も必要ない。

ただ世界には幸運な死者と不幸な人殺しだけがいて、生き残った人殺しが傷を舐めあって生きるのみ。

 

宇宙は決して、個人の生存や繁栄を望んだりしない。

けれど、我々人類は相手を許し、認めることができる。

人を許し、「生きていて良い」と伝えることが愛情である。

 

30年以上漫画を読み続けてきたが、結局アイレンより優れた恋愛漫画はただの一つもなかった。

もしもこの18年前にこの作品と出会っていなかったら、私の恋愛観は全く別のものになっていただろう。

それほどまでにアイレンは美しく、衝撃的な傑作だった。