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最悪の最終回を迎えたとして、ネットで大炎上した推しの子。
主人公死亡で恋愛の決着が付かずバッドエンドとなれば酷評も仕方ないが、個人的には全く悪いとは思わない。
むしろ安易な展開に逃げず、アイドルとしての信念を貫いた最高のエンディングだったと思っている。
叩いている人は、本作のテーマが何かわかっているだろうか?
それは嘘である。
最強のアイドルであるアイはもちろん、その子供達や同僚、芸能界の誰もがファンを騙すためにこれでもかと嘘を付いてきた。
・アイ 自分の心の闇、彼や子供の存在を隠し、無敵のアイドルを演じた
・ルビー 母や兄の死を乗り越えた最強のアイドルを演じた
・アクア 父に襲われたと見せかけて心中し、大衆を騙した
・MEMちょ 年齢詐称でJKアイドルを演じた
この他にも作中には大小様々な嘘が散りばめられ、それによって大衆が理想とする偶像(アイドル)が形成されている。
アイドルの役割はこの世界にない夢を与えることであり、そのためには現実離れした嘘を吐き続けなければいけない。
「アイドルはトイレに行かない」みたいな見え透いた詭弁であっても、宗教的信仰を守るためには言い続けなければいけないのだ。
そして、偶像を作り上げる嘘は大衆を納得させ、感動させるものでなくてはならない。
アクアが死んで誰も幸せにならない最終回に怒る読者の気持ちはわかるが、想像してみてほしい。
もしろアクアが生き残ってルビー、有馬かな、あるいは黒川あかねと付き合ったとして、それはハッピーエンドになるだろうか?
推しのアイドルに男ができたとなれば、信者が激怒するのは必定。
しかも相手が実の兄ともなれば、スキャンダルどころの騒ぎじゃない。
倫理的に大問題になり、芸能界を追われるのは目に見えている。
前作のかぐや様と違って、恋愛御法度の双子アイドルもので「二人は結婚して幸せに暮らしました、めでたしめでたし」なんてノータリンな結末は描きようがないのだ。
アクアの死で多くの読者は落胆したが、作中ファンの視点から見ればどうだろうか?
二人が心中したことで禁断の兄弟愛スキャンダルがなくなり、殺人教唆を繰り返して悪評を爆発させそうなサイコ父の存在も消えた。
ルビーは悲劇のヒロインとなり、自分達だけの太陽として君臨し続ける。
無敵のアイドルを望む信者と興行収入を望む業界人にとっては、この上ないハッピーエンドになったのだ。
・読者 アクアがヒロインを選んで幸せになる結末が見たい
・ファン 逆境を乗り越えて夢と希望を与えるアイドルが見たい
残念ながらこの二つの願望は、作品の構造上両立させることができない。
大衆を熱狂させる無敵のアイドルとしての矜持を貫き通すためには、アクアに生涯最大の嘘を抱えて水中ダイブしてもらわなければならなかった。
なお、テーマを一貫させるために読者の期待を裏切ることになったのは残念だが、まだ救いは残されている。
単行本で24頁の加筆が行われ、その後を描いた外伝小説も販売されるそうだ。
そこに未回収の伏線や残されたヒロインのフォローが盛り込まれ、愛読者の心が救われることを期待している。
ちなみにアクアの遺体へビンタしたのはアカデミー賞ものの名演技で、実は遠くでこっそり生存してるんじゃないかと思ってる。
騙し騙される世界なんだから、それくらい都合の良い嘘が一つぐらいあってもいいだろう。
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