<あらすじ>
奴隷狩りに姉を攫われた少年ルークは、神から『体からカネを生み出す能力』を授けられる。
能力の持つ致命的な欠陥を智謀でカバーしつつ、ルークは軍人や奴隷商人と渡り合って姉の奪還を目指す。
|
贋金作りという、非常に珍しい能力を持った主人公。
確かにお金の力は強力で、文明社会においては銃や刃物より強い。
暴力で従えるより、札束をちらつかせて操る方がよほど簡単だ。
ある意味魔法を超えた、最強のスキルと言ってもいい。
だが、ポンと1億円出せるようなものではなく、能力漫画らしく制限が存在する。
それは「同じ数字の札しか出せない」というもの。
昔ブラックジャックで宇宙人が手術代を払った話があったが、それと同じく見比べれば偽札だとすぐにバレてしまう。
この欠点により能力の用途は限定される。
困難に直面する中で、ルークはいかに能力を役立てるか知恵を試されることになる。
・1万ベルクずつ使う
・札束を見せ金にし、実際は渡さない
・異なる場所で同時に使う(その後、世界経済は破綻する)
非力な少年が工夫を凝らして軍人や奴隷商人、強盗と渡り合っていく展開は面白い。
男なのに妙にエロチックな描写や、ぶっとんだキャラも見事。
だが、それ以上に注目すべきは、お金の正体が信用であることだ。
完全に本物と同じで、自販機を使ってもバレない精巧な1万円札。
一般人がそれを使って物を買ったとしても、ちょっと罪悪感を感じる程度だろう。
しかし、それは現代においては重罪であり、罰金1万円程度で済まされることではない。
精巧な偽札があるということは、今私達の財布にある札が本物だと証明できないということ。
誰かが無限にお金を刷って物資を調達し、お金の価値をすり減らしてしまうということ。
そうなれば誰もが恐怖に囚われ、通貨を持っていられない。
次々と投げ捨てるように外貨や現物資産と交換し、ドミノ倒しのように価値が下落し続け、いずれ通貨は紙屑になり果てる。
それがタイトルにあるハイパーインフレだ。
三橋貴明とかいう自称経済学評論家は、
「ハイパーインフレは戦争などで供給力が毀損したからで、現代ではあり得ない」
と嘯いているが、現代のジンバブエもベネズエラもアルゼンチンもトルコも戦争などしていない。
殆どのハイパーインフレは、政府・中央銀行の『カネを生み出す能力』により民衆が、
「いくらでも刷られる札より、米ドルやビットコインに逃げた方がいい」
と考え、資産を逃避させた結果だ。
今の日本人は不気味なほど日本円を信用しきっているが、これからもそれが続くとは限らない。
信用を築くのは死ぬほど大変だが、壊れるのは一瞬だからだ。
今はただ、日本人が「円を持つリスク」を認識できていないだけ。
1000兆円の借金をチャラにするために政府が『カネを生み出す能力』を行使することがあれば、為替市場で円が売り叩かれて暴落し、経済崩壊するだろう。
本作がそこまで至るかは未定で、完結前に打ち切りになりそうな気もするが、できることなら最後まで描き切ってもらいたい。
お金の幻想に浸かった日本人の目を覚まさせるためにも。