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<あらすじ>
家族に見守られて天寿を全うした女性は、異世界の貴族オールバンス家で長女リーリアとして誕生。
母の死によって父親から疎まれながらも、懸命に家族の絆を取り戻す。
誘拐や虚族の襲来に遭いながらも前世の記憶を活かして立ち回り、皆に愛されながら幼女は成長していく。
現実に不満を抱えた落伍者が異世界に転生して好き放題暴れまくる『なろうゴミ』は星の数ほどあれど、その欠点を払拭して磨き上げられた作品はこれを置いて他にない。
これを読めば、クソなろうが世間に見下されている理由がよくわかるだろう。
なろうゴミ「前の人生では引きこもりニートだったから、次の人生では英雄になって皆に絶賛されるぜ!」
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幼女「前世では家族に愛されて逝去し、今世では父と兄を大切にして生きます」
なろうゴミ「神様からチート能力をもらった俺様は無敵だ!」
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幼女「なぜ転生したのかはわからないし、スキルや魔法は使えません」
なろうゴミ「健康な肉体と誰とでも話せる言語能力で活躍しまくるぜ!」
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幼女「一歳児なのでヨチヨチ歩きで、言葉もろくに喋れません」
なろうゴミ「S級冒険者になって剣と魔法でモンスターを狩りまくるぜ!」
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幼女「魔力はあるけど、攻撃も回復もできません」
なろうゴミ「貴族は平民から搾取するクズだから成敗してやる!」
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幼女「貴族は虚族から民の生活を守る、責任重大なお仕事です」
なろうゴミ「男ならハーレム!女なら婚約破棄してきた男を捨てて王子様と結婚!」
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幼女「私が王妃様とかないわー」
いやー、何もかも対照的。
というか、なろうテンプレの嫌われる要素を一つ一つ洗い出して、丁寧に修正しているのだと思われる。
なろう作品の大半は既存の作品を模倣した劣化コピーで、承認欲求を満たすための異世界の人々を貶めているが、この作品はその逆。
主人公を落伍者の投影ではなく読者が愛でられる幼女として、現地の人々を尊重して愛情を振りまく赤子をこの上なく見事に描き切っている。
よくある貴族転生と同じようにリアも生まれつき高い魔力を持っているが、他作品のようにそれを使ってモンスターや人間を攻撃することはない。
というか、そもそもこの世界には攻撃魔法や回復魔法という概念は存在しない。
当然レベルやスキルといったゲーム要素も皆無で、地に足のついた世界観になっている。
この世界における魔力とは魔法や魔術を行使するものではなく、現実世界における電力に相当する。
照明のような小道具の電池(魔石)に充電するエネルギーが魔力であり、特に虚族と呼ばれる悪霊から守るため結界装置を起動するために、貴族は命を削って魔力を行使している。
いかに高い魔力を秘めていようと、リア自身には蚊の一匹を殺す力すらない。
一歳児なので流暢に言葉を喋って意思を伝えることも、走って逃げることすらままならない。
圧倒的なハンデを背負った状態で前世で培った知恵と周囲の協力を駆使して問題に立ち向かっていく様は実に面白い。
なろうゴミは100のチートパワーで10の課題を難なくクリアするが、本作は1の幼女力と人の絆をもって10の課題に取り組んでいくのだ。
物語の中盤でリアは結界装置の仕組みを解明して装置に頼らず力を行使する方法を発見するが、この展開は他作品が「俺様は皆と違って無詠唱魔術を使えるぞ!」と言って周囲にマウントを取っているのと本質的には同じだ。
だが、そこに至るまでの過程と異世界人への気遣いが全く異なる。
なろうテンプレなら何の努力もなしに無詠唱魔術を使って格の違いを見せびらかすが、幼女は先祖が長年の努力によって築いてきた技術を尊重して学び、世界のバランスを崩さないように秘匿する。
自身の高い魔力に驕らず、自分がいなくても結界が守られるように効率的な充電を指導するのだ。
異世界を自尊心を満たすための道具として扱い、読者を不快にさせる転生漫画が溢れるなろう界隈で、このように配慮ができる作品が生まれたことは本当に喜ばしい。
最近では最低限のレベルにも達しないなろうアニメの粗製乱造が相次いでいるが、 こちらをアニメ化して目を覚まさせた方がいいのではなかろうか。
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