<あらすじ>
援助交際をしていた女子高生・小山ハルは交通事故に遭い、異世界に転移。
チート能力を授けられた同級生・千葉セイジが冒険者になる一方で、何の異能力も持たないハルは娼館『夜想の青猫亭』で娼婦として働く。
男尊女卑の世界で性暴力に耐えながらも、ハルは逞しく生き抜いていく。
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異世界おじさんや知恵の勇者などなろう系異世界転移・転生を皮肉った作品は色々あるが、その幼児性をこれほど見事に(かつ美しく)描いた作品は他にないだろう。
なろう系ファンタジー世界は何故か住民の知的水準が低く現代知識無双できることが多いが、本作の文明はそれなりに発展しているので現代日本人のアドバンテージは殆どない。
当然娯楽や食文化も異なるので、オセロやマヨネーズを作って儲けることもできない。
チート能力を受け取ったわけでもなく男性ほど腕力のない異邦人の女性は、風俗まがいの酒場で体を売って稼ぐ以外の選択肢がない。
なろう系チートは、キャバクラによく似ている。
世界全体が転移者に気持ちよくなってもらうための舞台装置であり、現実の厳しさに疲れたサラリーマンやそこから逃げた無職の癒しの場になっているからだ。
『金を払って都合の良い夢を見る』と言う点では、風俗もチート小説もたいして変わらない。
端的に言えばなろう民は『キャバクラで接待される客』なのだが、読んでいる側にはその自覚があまりない。
キャバ嬢がどれだけ神経をすり減らして接待しているのか、愛想笑いをしながら本心では何を考えているのか、想像してみたことはあるだろうか?
接待する側に立ち、異世界転移者を観察するのがこの作品なのである。
<千葉セイジ(主人公ではない)>
・チート持ちの冒険者
・男尊女卑の童貞思考
・女を都合の良い奴隷だと思っている
・現実世界に帰りたくない
<小山ハル(主人公)>
・チートなしの娼婦(実際はあるが、基本的に使わない)
・男尊女卑を受け止めて現実的に考える
・男は幼稚と思いながらも尊重する
・現実世界に帰りたい
この対照的な二人は、まさしく子供と大人。
大人の風俗嬢は夢見がちな子供を叱責するのではなく、夢を壊さないように優しく包み込む。
世界に接待されて神から与えられたスキルを振り回す子供勇者と、生まれ持った身体と心を摩耗させながら懸命に奉仕する労働者。
どちらが本当にカッコいいかと言えば、間違いなく後者だろう。
性産業で男の夢を守り続けている全ての女神に感謝を。
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