二次元桃源郷(アニメ、漫画、ゲーム感想)

作者に配慮した生温いレビューは要らん!駄作は駄作と言え!

【戦国小町苦労譚】評価A マウントしない知識チート

<あらすじ>

農業高校の女子高生、綾小路静子は戦国時代にタイムスリップし、織田信長と出会う。

静子は戦国時代で生き抜くために織田信長に仕え、現代の知識を用いて尾張国の農業改革に乗り出す。

 

www.comic-earthstar.jp

 

未来の知識や技術を使って歴史を改変するタイムスリップ漫画。

人間本来の能力である知識をチートと呼ぶのは語弊がある気はするが、いわゆる知識チート系

設定としては、かなりご都合主義的。

たまたま農業高校で育てる種や芋を持った状態でタイムスリップして、いきなり信長に遭遇する展開は神の力でも働いているとしか思えない。

高校生の知識が戦国時代に通用して、とんとん拍子に収穫が増えていくのも、出来すぎている感は強い。

 

ご都合主義展開と現代知識無双で成り上がっていくだけなら、いつものなろう系。

「マウンティングのために異世界や原始人を利用するのは止めろ!」

と吐き捨てていたところだが、本作はそうせずに済んだ。

なぜなら、静子には自己顕示欲が全くないからだ。

 

主人公が信長に成り代わって天下を取ったり、自分の望むままに歴史を改変しようとする少年であったら、マジで糞みたいな作品になっていただろう。

しかし、静子は謙虚で誠実な女子高生で、自身の技術をひけらかして優越感に浸ったりはしない。

命の重さをよく知っており、戦争で命を奪うためではなく、飢えに苦しむ人々を助けるために現代知識を使う。

転生した途端現代の倫理を投げ捨てて経験値稼ぎのために殺戮を繰り返す、どこかの転生漫画に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 

未来の知識や技術が歴史を歪めてしまうことを知っているが故に自戒し、それでも飢餓から人を救うために改革を進める。

人を傷付ける恐れながらも、戦乱から味方を守るために武器の製造に手を伸ばす。

思い悩みながら、それでも最善の道を模索する。

結局戦乱は激化して、信長の配下である静子もやむなく人を殺めることになるが、その際はドス黒い怨念と寒気に襲われている。

文明人が当たり前に持つ恐怖や後悔をきちんと描く、原作者と漫画家の技量に感服した。

 

なろう小説や漫画では、神様からもらったスキルや遠い未来の知識を乱用し、その世界の住人を自己顕示欲のために使い捨てる傾向が見られる。

歴史上の偉人を女体化・兵器化して粗末に扱うため、不快感を感じることも少なくない。

しかし一方で、戦国小町や薬屋のように人としてのモラルを持ち、他人のために自己の才覚を用いて奉仕する物語もある。

 

現代社会のストレスを異世界にぶつけてスカっとしたい読者もいるだろうが、現実はゲームではなく、そこに住む人々もゲームの駒ではない。

歴史を動かす主人公にはやはり大義と誠実さが必要ではないだろうか?

無自覚に命を奪って、「またオレ何かやっちゃいました?」とトボけるサイコパスよりは、他人の痛みを自分のものとして受け取りながら成長する青少年の方がいい。